猫とワタシ

空のお城

小野上明夜の日記です。小説のこと+日々のどうでもいい話など。

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この記事のみを表示する「イノセント・スター 月と太陽のティアラ」

小説

「イノセント・スター 光を欲する闇黒星」内、ハーシエル・ティリスの挿話です。時系列としては、p165、第三章最後の部分直後。

ページ数を調整するために削った部分なので、一部本編のネタばれがあります。本編を未読の方はご注意下さい。

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 取り残されたティリスとハーシエルは、しばらくの間やっぱりきゃあきゃあ叫んでいるエリッセの声を聞いていた。
 だがやがてその声は聞こえなくなり、二人はどちらからともなく顔を見合わせる。
「先生、ごめんなさい」
 またしょんぼりと肩を落とし、ハーシエルは改めてそう謝った。
「いいのよ、気にしないで。その……ごめんなさいね、私こそ。ハーシエルくんの気持ち、分かってあげられなくて」
 実はいまだ、いつハーシエルに好きだと言われたか思い出せないティリスである。そこをごまかす意味も含めて優しく笑った彼女の顔を、ハーシエルは曇りのない瞳で見つめる。
「ねえ、先生。僕、後何年かしたら誰よりもかっこよくて強くて優しくて背が高くてたくましい男になる。そうしたら僕と結婚してくれる?」
 最早隠す必要がなくなった想いを素直すぎるほど素直にぶつけられ、ティリスは微苦笑を浮かべて答えた。
「その頃になってもまだ、あなたが私のことをその……好きでいてくれたらね」
 気恥ずかしそうに言う彼女に、ハーシエルはなおもじっとその顔を見て、
「大丈夫だよ。先生以上の人なんて、僕には考えられない」
 こうも次々と熱烈な口説き文句を言われては、いかに相手が子供で生徒とはいえ、段々本気で恥ずかしくなってくる。赤らみ始めた頬を押さえ、ティリスは照れ隠しにこんなことをつぶやいた。
「そ、それはまあ……嬉しいんだけど……先生今まであんまりもてたことないし、正直ハーシエルくんが私の何をそんなに気に入ってくれたんだか分からないわ。ハーシエルくんは後何年かすれば本当に、かっこよくて強くて優しくて背が高くてたくましい男の人になるだろうけど、私は……」
 非常に若く見えること以外格別に美人でもなく、素晴らしい肉体を持っているわけでもない己が姿を見下ろして、ティリスは悲しそうな声を出す。言っているうちにみじめになってきたのだが、ハーシエルの視線は変わらない。
「一等星だシリウスだって騒がれてるけど、僕はただの〈星〉。星は光がなきゃ輝けない」
 すでに夜明けが近づいてきている時間だ。空では第三の月、終末の影が中天に差しかかりつつある。
 下から見るとその月をちょうど頭上に冠した格好になっているティリスを見上げ、ハーシエルはあくまで真面目な顔をしている。
「先生は僕の月、僕の太陽だ。ティリス先生がいないと、僕は光れなかった」
 耐えきれなくなったティリスが、顔を真っ赤にしてその場に座り込んでしまう。うぶな反応を示す彼女の耳元に、ハーシエルはそっとささやいた。
「僕が大人になるまで売れ残っててね、先生」
「……心配しなくてもこの年まで売れ残ってるのよ、先生……今さら売れないわ……」
 ほてる頬を押さえてうめくように言ったティリスは、だがその内そろそろと立ち上がった。多生場の空気を変えるための意味もあったが、それ以上にのんきに赤くなっていられない状況を思い出したのだ。
「……でも、エリッセちゃん、本当に大丈夫かしら……やっぱり私も追いかけた方が……!」
 慌てて飛翔術を使おうとし始めたティリスに、ハーシエルは素早く口を開く。
「だめだよ、あいつまた先生に触るかもしれないし。大体僕が勝てない相手なんか、先生が追いかけたって無意味だ」
 月だ太陽だと熱烈な口説き文句を口にしつつも、恋する女性の〈星〉としての能力のほどは分かっているらしい。はっきりとそう言ったハーシエルは、ティリスと同じ方向を見てつぶやいた。
「それにエリッセなら、多分大丈夫だよ」
「そ、そう、かしら……?」
 何とも言えない顔でつぶやくティリスの声を聞きながら、ハーシエルはディガンとエリッセが飛んでいった方向を見つめている。
 ハーシエルが放った致死の術は完全に発動していた。
 ディガンが放った術はそれへの単なる報復であって、エリッセに向けられた術そのものを防ぐようなことは彼は行っていない。
「と、とにかくハーシエルくん、当分私の部屋に泊りに来てはだめよ? そろそろやめなきゃって思っていたところだったし、あ、あなたに変な下心があると分かった以上は」
 だいぶ赤みも引いた顔で、ティリスが思い出したように言い出す。
 早速始まったお小言にさえどこかくすぐったそうに肩をすくめ、ハーシエルは未来の妻の声に聞き入った。



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