猫とワタシ

空のお城

小野上明夜の日記です。小説のこと+日々のどうでもいい話など。

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この記事のみを表示する「悪魔が来たりて」番外編:「たまには甘いお茶の時間」(本編ネタばれ含)

小説

「悪魔が来たりて恋を知る」本編終了後のSS、カルガ視点です。
本編読了後のネタばれを含みますので、未読の方はご注意下さい。

**************

 別に俺は、こいつらがどうなろうと知ったこっちゃないんだ。
「ユーシウス様、どうですか? 今度こそ、うまく淹れられたと思うのですけど……」
 ベルール騎士館の最上階、ようやく元の主の手に戻った補佐官室にて。神妙な顔つきで文机にティーカップを置いたミアリと、カップの中身を睨みように見つめているアシュリー補佐官閣下を、俺は壁際から冷めた眼で眺めやる。
 バディス人の俺にはいまだ馴染めない、匂いはさわやかだが独特の苦みのあるキア茶を淹れる練習を、ミアリは毎日行っている。まずは身近なところから淑女を目指そう、ということらしい。
 大きな瞳で不安そうに見守っているミアリのほうをちらりと見上げてから、補佐官閣下がカップを取り上げた。かすかに眉根を寄せたのは、陶器が肌に触れた瞬間、ご自身の理想の温度ではないことを察したためだろう。
「……飲める」
 一口すすり、おもむろに発した言葉に苦笑いしてしまう。茶にうるさいあなたにしては上出来のお返事ですが、ミアリにそれが通じますかねえ?
「ご、ごめんなさい! 淹れ直しますッ」
 案の定泣きそうな声で言ったミアリが、慌ててティーカップを持ち上げようとする。
「危ない!!」
 まだなみなみと入った茶がドレスに零れそうになり、補佐官閣下がミアリの手を掴んで引き寄せた。瞬間、ミアリの頬がぽっと染まる。
「ユーシウス様……、分かりました」
「いや、君は何も分かってなどいない!! 勘違いするな、茶が零れそうになったからだ!!」
 お馴染みのやり取りを飽きもせず繰り返したあと、ミアリは今さらのように身を縮めた。
「ご、ごめんなさい、私の味覚は、やっぱり人間とは違うようで……」
「まず温度……、いや、気にするな。戦場では、味など気にしていられないこともある」
 朴念仁を絵に描いたような慰めは、下手な道化より面白いが……だがまあ、この調子でいつまでも騒いでいると、またいろいろうるさいしな。
「気にするな、ミアリ。補佐官閣下は元々、他人の淹れた茶は飲まないんだ」
「まあ……、そうなんですか? カルガ様」
「ああそうさ。俺が淹れた茶だって、まともにお飲みになった試しがない」
 白々しくつけ加えてやれば、補佐官閣下は気まずそうに視線を逸らした。
「お前が悪魔だからとか、俺がバディスの山猿一族の出身だからとか、そういう小さいことを気にする御方じゃないんだ。ちなみに甘味については見境がないぐらいだが」
「カルガ!!」
 目元を赤く染め、補佐官閣下が俺を睨んだ。
 そしていきなり立ち上がり、反射的に身構えた俺の横をすり抜け、向かう先は執務室の隣。さっきまでミアリがいた、使用人用の続き間だ。
「確かに私が、贅沢にも茶にうるさいことは認める」
 すれ違いざまのひと言に、俺はすばやく突っ込んだ。
「あなただけじゃないですけどね。大体ベルール人はティータイムの取りすぎで」
「だから、私が茶を用意し、振る舞えばいいということだ。ミアリ、少し待っていたまえ」
 止める暇もなく、姿勢よく隣室に消えた背中に、ミアリが慌てて声をかける。
「そんな、ユーシウス様のお手をわずらわせるなんて! く、唇に残った分を、少し舐めさせていただければ……」
「いいから座っていたまえッ!!」
 恐縮しつつも図々しい提案を撥ねつけてから、彼は俺の名を呼んだ。
「カルガ、お前も座っていろ。キア茶はちゃんと淹れれば、バディス人にもうまいと思えるはずだ」
 照れ隠しにか、ぶっきらぼうな言い方に、俺は毒気を抜かれて息を吐く。……仲間外れはよくないか、さすが我らが補佐官閣下。
「あの、さっきは慰めて下さってありがとうございます、カルガ様」
 近寄ってきたミアリが、こそこそと礼を言い始める。体つきは色っぽいこのこの上ないのに、妙に無邪気な、信頼に満ちた微笑みが、黒こげになった妹たちの死体に重なって見えた。
 ――別に俺は、こいつらがどうなろうと知ったこっちゃないんだ。
 ただ、上官が淹れてくれた茶を、美女を侍らせて飲むような機会を逃したくない。それだけなんだ。
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